経済学大学院留学ガイド -LSE-

経済学研究水準世界ランキングで20位に入る London School of Economics (LSE)。イギリスの大学院なので、アメリカとは幾つか異なる点がある。そういった点をまとめた。

(2007年5月更新)石原君が MRes/PhD コースの1年目の授業の様子をまとめてくれました。本人の承諾の下、以下に転載します。

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1年生の授業内容 2006/7年版

以下に、今年受けたLSE経済学部の博士課程(MRes / Ph.D Programme) 1年目の授業内容を記しておきます。今年の話なので来年以降変更の可能性は十分にありますが、入学アプライを考えている方など、参考にしていただければ幸いです。

  1. 基本情報

    基本的には3学期制(Michaelmas: 10-12月、Lent: 1-3月、Summer: 4-6月)。全てのtermは10週で構成される。ただし、summer termは講義はなくmock Examとfinal exam(と一部の演習 (classと呼ばれる))のみなので、実質2学期制で計20週。

    1週につき講義(lecture)が3時間、classが1.5時間。

    基本的にどの授業もgradingはfinal examのみの模様だが、宿題にも基本的には提出義務があり、それを元にclassでdiscussionされる。

    1年目の開始の前の9月に(どの学校でもお決まりの)数学の授業がある。

  2. Introductory Courses in Maths and Statistics

    First Yearの開始前の9月に3週間でやる数学と統計のおさらい(余談だがTrack 2というプログラムの学生は参加義務なし。というかむしろオファーされていないと思う)。MSc(修士コース)の人たちと共に履修。4人の先生によって lectureはオファーされ、その後 Classで演習問題のDiscussionというルーティン。毎日(lecture + class) * 2があり、その度にExerciesがあるため、この期間意外と大変。

    Review (Instructor: Margaret Brey): 内容は手渡されるハンドアウトに微分、線型代数、位相論の基礎がある(基本的にはSimon and Blume (1994)に依拠するらしい)が、講義内容はポイントポイントを抑えて解説するのみ(というか、全部やってたら時間が足りない)。基本的には「ここは分かっとけよ」という部分で、講義でやらなかった分はもっぱらclassでの演習によってカバーされる。

    Probability and Statistics (Instructor: Bernardo Guimaraes): 内容は初歩的な集合論、(条件付)確率分布、確率変数、推測論、仮説検定、線型回帰の初歩。測度論は扱わず。

    Mathematics for Microeconomics (Instructor: Georg Weizsacker): 内容はConvexity analysis, Unconstrained optimization, Constrained optimization (Lagrangean, Kuhn-Tucker condition), Envelope theoremなど。

    Mathematics for Macroeconomics (Instructor: Rachel Ngai): 内容はFirst order differential Equation, Leibniz rule, Phaze diagram analysis, Descrete time dynamic optimization, Continuous time otimization (hamiltonian)など。

    最後に微積線型最適化パートと数理統計パートのそれぞれでテスト(が、点数が良くても悪くても特に何を言われるというわけでもない…はず)。

    References

    Simon, C. P. and Blume, L. (1994), ``Mathematics for Economists" W.W. Norton & Company, NY.

  3. Microeconomics

    Michaelmas (Instructor: Leonard Felli): 内容はConsumer theory, Producer theory, General equilibrium model, Externality, Public goods, Game theory with complete information.。Game Theory以外は基本的にVarian (1992)がベースになっている模様。講義は非常に分かりやすく良かったが、宿題が半端なく多かった…。

    Lent (Instructor: Andrea Prat): 内容はDecision making under uncertainty, Game theory with incomplete information, Mechanism design, Moral hazard, Dynamic game theory with incomplete information,, Social choice。講義ノートにはMultiparty contractsおよびCommon agency modelもあったが、時間割の都合上(今年は?)割愛。かなり応用寄りの内容になっていて、日本で一度大学院ミクロをやった人でも、単なる復習にはならなくて面白いかも。が、周りはかなり分かりにくいと不評…。(筆者はこの辺が本業なんであんまり苦ではなかったが)。宿題はそれなりに多い。

    総評: 基本的には標準的な授業よりもややGame theory寄りかという気がする。全般的に応用例が多かったり、実証を意識させた内容になっていたりと、応用を意識させた内容になっている感じがする。前半にGameを少しやったと後半の最初にexpected utilityをやるのはちょっと謎なのだが(笑)。あと、(ほぼ当たり前だと思って書かなかったが)Mas-Colell et al (1995)も要所要所で必要。

    最終試験: 3時間。MichパートとLentパートそれぞれから3問ずつ出題され、ぞれぞれから2問ずつ選択(計4問解答)。

    References

    Mas-Colell, A., Whinston, M. D., and Green, J. R. (1995), ``Microeconomic Theory", Oxford University Press, NY.

    Varian, H. R. (1992), ``Microeconomic Analysis" 3rd ed., W.W. Norton & Company, NY.

  4. Macroeconomics

    Michaelmas (Instructor: Francesco Casseli): 内容はGrowth theory, Real business cycle。前半はBarro and Sala-i-Martin (2004)に基づいて授業。講義ノートはかなり分かりやすいものの、強烈なラテンなまりの英語に加え、スライドなどを一切使わないので、授業中に喋ってる内容を追うのはかなり大変だった。宿題の量は普通くらいだが、それでもRBCパートは途方もなくめんどくさい訳で…。

    Lent (Instructor: Christopher Pissarides): 内容はJob Search theory, Consumption, Credit cycle, Asset Pricing, Investment。. 前学期に景気循環を大枠で考えたので、今回はもうちょっと個別に要因を見てみましょうか、という感じか。(とはいえ、サーチで前半半分を占めるのだが)。 Job SearchはPissarides(2000), その他のパートの一部はAdda and Cooper (2003)が元になってる模様。講義ノートの内容をしばし説明しきれなくて「じゃあ、 classでやりましょう」など、かなり準備に抜かりが…。あと、ぼそぼそっと喋る言葉が強烈な眠気を誘う…。宿題はそんなに多くないが、問題の難易度に落差があり、いちいち大変さが予測できなかった(笑)

    総評: マクロは概して大学の``色"が出る授業だが、このマクロは割と満遍なくバランスが取れているのではないかと思う。敢えて言うと、 Monetary系がほとんどないという感じか。classは学生ではなくFacultyが担当し、むしろこちらの方が役に立った。

    最終試験: 3時間。最初に必須解答の小問が8つ(前後半で4つずつ)出題されそれで約5割。その後にそれぞれのパートから大問が2問ずつ出題され、それぞれ1問選択 (大問計2問解答)。

    References

    Adda, J. and Cooper, R.W. (2003), ``Dynamic Economics: Quantitative Methods and Applications" MIT press, MA.

    Barro, R. J. and Sala-I-Martin, X. (2004), ``Economic Growth" 2nd ed., MIT press, MA.

    Pissarides, C. A., ``Equilibrium Unemployment Theory", 2nd ed., MIT press, MA.

  5. Econometrics

    Michaelmas-1 (Instructor: Myung Hwan Seo): Michaelmas Termの前半5週を担当。内容はMeasure and probability theory, Review of linear algebla, Estimation, Hypothesis test, Asymptotic theory。数学的に複雑な内容ながら、非常に直感的な説明が多く、Felliと並んで分かりやすかったが(英語の分かりやすい韓国人だったからかもしれないが)、やはりFelliと並んで、宿題の量が半端なく多かった…。

    Michaelmas-2 and Lent 1 (Instructor: Marcia Schafgans): Micaelmas term 6週目から、Lent Termの5週目間での担当。内容はOLS, GLS, IV and GMM, Simultaneous Equation Model, (Stationary) time series。Econometricsで一番基本となる重要なパートだが、癖の強い英語と、講義ノートの説明不足かつ煩雑さにより個人的には完全に混乱 (特にGLS)。一番苦労した授業。宿題は割と少なめ。

    Lent 2 (Instructor: Vassilis Hajivassiliou): Lent termの残りを担当。内容はNonstationary time series, Limited dependent variable, Panel data。一切のメモを見ずに、板書でしかもかなり分かりやすい授業を展開していたのには恐れ入ったが、配布された講義ノートが完全にはそれに対応してないので、どうノートを取ったらいいか困った(笑)。宿題の量は普通くらいだが、何故か提出義務がなかった。

    総評: 何で2人ではなく3人で担当しているのかよく分からないが、とにかくSchafgansのパートがかなり苦労し、これが後に尾を引くことになった。 (classのTAの解説が分かりやすかったのが救いだった。)基本的には実際にプログラムを回すような課題はなく、Microとは対照的にかなり理論重視になっている感もある。(20週では時間が足りないという説もあるが。)

    最終試験: 3時間。最初に必須解答の1問が出題され(いくつかの小問で構成される)それで約5割。その後に大問が6問出題され、2問選択。

  6. 進級条件

    基本的には全て5月末-6月初頭に行われる最終試験で決まる。

    3科目全てで50%以上。

    1科目落とした場合も進級できるが、再履修して次の年に突破しなければならない

    2科目以上落としたら進級できない

    2科目以上落とした人は去年は1人だか2人だか、とか言ってた気がした。

    3年目以降にPh.Dコースに進むためには

    この3つのうち2つで60%以上を取らなければならない。

    2年目の3科目(フィールド2つとセミナーコース)と合わせた6科目のうち、3つは60%以上(残りの3つは50%以上)を取らなければならない。

    全て絶対評価。

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2003/4年度から、LSE経済学部は、MRes/PhD in Economics という修士課程と博士課程をドッキングしたプログラムを始めました。このプログラムはアメリカのPhD in Economics プログラムとほぼ同じです。合否通知もアメリカの大学と同じ時期(4月1日)に行うそうです。詳しくはLSE経済学部ホームページのこちらを参照してください。

なお、以下に説明する MSc in Economics は継続されます。他方、MPhil/PhD in Economics は2003/4年度をもって廃止されました。

  1. カリキュラム

    London School of Economics (LSE) の経済学大学院は、修士課程(MSc programme in Economics)と、アメリカ流に修士と博士を合併した MRes/PhD programme in Economics の二コースを用意している。

    修士課程

    日本とは異なり、一年間で修了できる。ただし、学部の専攻が経済学ではない人には二年間の修士課程が用意されている。修了のためにはミクロ経済学、マクロ経済学、計量経済学の三つの必修科目と、専門科目一つを履修し、必修科目については学年末の試験に合格し、専門科目については論文を書く必要がある(ただし、論文の最終成績におけるウェイトは試験の半分で、要求される水準は日本での修士論文より低い)。各科目ごとに、マスプロ講義の他に、10人程度のグループに分かれて講師のもとで練習問題を解くという時間もある(class と呼ばれる)。詳しくは、 LSE 経済学部のホームページを参照。必修三科目のうち一科目は MRes/PhD programme 向けのよりレベルの高い科目を履修できる、とホームページには書いてあるが、LSE教授陣の意向としてはそうして欲しくないらしい(2004/5年度の MSc in economics の学生である Vinayak の10月1日の日記を参照)。優れた成績を納めれば、MRes/PhD program の二年目に編入(Track 2)されることも可能。

    より詳しいインサイダー情報は、Vinayakの2月13日の日記を参照。

    LSE経済学部は他にもMSc in Econometrics and Mathematical Economics というより数学を重視した経済学修士課程を用意している。

    博士課程(MRes/PhD in Economics)

    変な名前が付いているが、要はアメリカの大学のPhDプログラムと全く同じ。なので説明省略。ただし、MRes/PhD in Economics の二年目に編入できる Track 2 という制度がある。経済学の修士号を持っている人はこちらに入ることができるようだ。詳しくはこちら

  2. 必要な出願書類

    修士と博士のどちらに出願する場合でも、推薦状2通、学部/大学院の成績表、GRE、TOEFL、Statement of Purpose。TOEFL の代わりに IELTS(イギリスへの留学生が受けなくてはならない英語テストで、スピーキングセクションもあるのがTOEFLとの大きな違い)でも良い。

  3. 修士課程に出願する場合

    修士課程に合格するのはそれほど難しくはないらしい(a PhD student at Univ. of Tokyo)。2000年には、934人出願して 121人入学したそうだ(ロンドン大学会掲示板)。LSE の経済学修士号は、ロンドンのシティ(金融街)で就職するには有利に働くそうだが、修士課程での勉強はハードで、就職活動をする余裕はなかなかないらしい(a MPhil student at LSE)。

  4. 奨学金

    修士課程生はLSE から奨学金を得られる可能性はない(要確認)。博士課程生への奨学金提供は、MRes/PhD in Economics プログラムの設立以来、改善されたようだ(The Economics Initiative - LSE経済学部による卒業生からの寄付金募集キャンペーン - のパンフレットの4ページ目に現状及び今後の計画が書いてある)。

    アルバイトとして、学部生向けの経済学の授業のTAをする博士課程生が多い(詳しくは経済学部ホームページのこちらを参照)。週に1時間の teaching session (class と呼ばれる)を最低二コマ(最大五コマ)教えなければいけない。負担はかなり大きい。学生の出欠までしっかり確認しないといけない。あまり学生に親切にしすぎると彼ら彼女らはどんどん付け込んでくるので研究時間がどんどん削れていく。優秀でしかもネイティブのイギリス人でさえ、大変だと言っているそうだ(a PhD student at LSE)。にもかかわらず、週5時間教えて1ヶ月に得られる給料(時給35-40ポンド)は世界有数の物価の高い都市ロンドンの一ヶ月の生活費(約800ポンド)を賄えない。

  5. その他

    私が博士課程に入学して以降、カリキュラムがほぼ毎年のように変わっている(気がする)ので、今どういう状況なのかよくわかりません。質問(奨学金に関するものも含む)がある方は、LSE経済学部に直接問い合わせてください。

    なお、LSE経済学部ホームページのPhD学生一覧で、5年生以上がわんさかいますが、これは決して5年以内に博士号が取れずに苦労している学生が多い(と私は入学前にそう誤解した)ということではなく、単に博士号を取得して就職しているのにも関わらず名前がまだ消されていないだけです。

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